11年連続甲子園に向かって。聖光学院・三塁コーチャーが飛ばした「檄」
ライター田口元義が聖光学院11連覇への道を追う-2
向けられた三塁コーチャーの「檄」
試合に出られない選手のために――。小泉にその信念が色濃く根付いた出来事がある。春季大会前の練習試合での失態だった。全国屈指の強豪校との試合に出場した小泉は、得点機でサインを見逃してしまった。本人が「あのときは、打席に入り込んでしまって……」と回想するその姿勢を、斎藤監督が見過ごすはずがない。
「この野郎! と思ったね。怒鳴ってやろうとしたら、伊達がさ」
その場面、小泉に怒声を浴びせたのは、監督ではなく三塁コーチャーの伊達駿介だった。
「お前ふざけんな!」
真剣に小泉を叱責する伊達に触れ、斎藤監督は「今までは心の中で思っていても、口に出さないヤツだと思っていたから、あのときは驚いたよ。でも、嬉しかった」と、目尻を下げながら言っていたものだ。
伊達はそのシーンを覚えていた。「言わなきゃダメだ」。彼なりの覚悟の表れだったと言う。
「愛情の裏返しというか。もし、夏に小泉が同じようなミスをしてチームが負けるようなことがあれば、十字架を背負わせてしまう。それだけは絶対に嫌でした。あのときに言えば、ずっと意識してくれると思いました」
2年時にBチームの主将を任され、今もAチームで副主将の責を担うだけに、チーム内での伊達の求心力は高い。
従来のポジションは捕手。プレーヤーとして試合には出たい。だが、新チーム発足当初から、斎藤監督や横山博英部長に「監督と部長の次に責任あるポジションだ」と重要性を説かれ、コーチャーズボックスで腕を回し、勝利に貢献する度に「聖光にしかないレギュラーポジションなんだ」と、誇りを持てるようになっていった。
だから、同じ〝レギュラー〟として小泉の姿勢が許せなかったのだ。
小泉が伊達の心意気に応える。
「試合に出ていない選手も、打席に入っている選手と同じくらい気持ちを入れてくれるから、自分以上に悔しいし、言ってくれるんだと思います。そういう選手がいないと、チームは強くならないんです」
甲子園まであと2勝。
試合に出られる選手は、出られない選手の信念、意志を胸に刻む。一蓮托生の福島の夏。彼らは、歓喜を分かち合う。【田口元義「聖光学院、11連覇へ望む」2回】
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